英文読解力を向上させる(2) 文法って役に立たない?英文読解力を向上させる(1)

本日は英語学習における読解力の向上する方法について議論したいと思います。実はこれは永遠の課題であり、筆者にとっても相変わらず挑戦している問題点です。
随筆や論文の翻訳でも、哲学的なものですと、一筋縄ではうまくいきません。

エマソン (Ralph Waldo Emerson) というアメリカの哲学者がいます。多くの思想家に影響を及ぼしたこの人の英文は極めて難解と言われています。例えば、有名な文章で次のようなものがあります。
Every spirit builds itself a house; and beyond its house a world; and beyond its world, a heaven. Know then, that the world exists for you. For you is the phenomenon perfect.

この英文をいきなり和訳して欲しいと言われても難しいですよね。ある訳者は次のように訳しています。(エマソン選集1、自然について 日本教文社 斎藤光訳)

精神はそれぞれ自分の家を建てる。この精神の家のかなたには世界があり、その精神の家のかなたには世界があり、この精神の世界のかなたには天がある。だから、世界はあなたのために存在することを知らなくてはいけない。なぜなら、あなたは、完全な現象だからである。

日本語として分かりますが、かなり難しいですね。

もう一人別の訳者を紹介します。岩波文庫のエマスン著 「自然論」の訳者で片上伸です。

すべての霊はみづから一個の家を築き、その己が家のあなたに一個の世界を築き、その己が世界のあなたに一個の天界を造る。されば世界は汝等のために存在することを知れ。汝等のためにとてこの現象界は完全なり。

spiritを思い切って「霊」と訳していますが、この積極的な訳で分かりやすくなっています。

ちなみに現在話題になっている機械翻訳で訳してみます。AI (Artificial intelligence) の働きによって革命的に正確な翻訳が出来るようになり、実用が可能になったと言われていますが、どのように訳すでしょうか。次はGoogleを使用しての和訳です。
すべての精神はそれ自体に家を建てます。そしてその家を越えて世界。 そしてその世界を超えて、天国。それなら、世界があなたのために存在することを知ってください。あなたにとっては完璧な現象です。

この機械翻訳の和訳ですが、この日本語は何を言っているのかさっぱりわかりません。推定で年間数十億円から数百億円を投資をしてAIを発展させ、機械翻訳を向上させているにしてはこの翻訳はお粗末過ぎて議論の対象にもなりません。

さて今度は機械翻訳ではない人間の翻訳について論じてみたいと思います。流石に一流の翻訳者ですから、2人ともにうまい翻訳だと思います。斎藤氏の訳ですが、「精神が家を建て、出来上がった精神の家のかなたに世界があり、そしてその精神の世界のかなたに天がある」という意味だと思いますが、精神が構造の中心の家なのかがわかりません、また「その精神の世界のかなたに天がある」の「天」とは何なのかがわかりません。

筆者、個人的には二番目の片上氏の訳のほうが分かりやすく一貫性があるような気がします。しかし、beyondの訳がないために、自分個人の小さな世界しか表現されていません。

筆者の見解としてはエマスンが言いたかったのは精神は先ず家を造るが、それを超える存在として世界を造り、さらに進んで自己の目指す理想郷を造る、それをheavenと言っているので訳としては天国でも良いと思います。その全てを自己の精神で作り出しているのである、だからそれはあなたの思考に沿った理想であり、完全な世界なのだと言っているのだと思います。

この私の見解に沿ってリライトすると次のようになります。

すべての霊はみづからの家を築き、その家を超越して一個の世界を築く、その世界はあなたの天国である理想郷となる。されば、世界はあなたの精神により、造られ、この現象界は完全なものとなる。

霊的、哲学的な響きは減少していますが、このほうがエマスンが言わんとしている精神によって全てが造られ、自己の意思によって世界の現象が動くという主張が感じられ易いと思います。
もしかして私の主張が違っている場合には読者に謝るしかありませんが、この英文だけでは正確に解釈することは極めて難解です。哲学の読解や翻訳になると下手をすると読解したり翻訳したりした意味が全く反対だったということすら起こり得ます。そのぐらい英文を読解するということは難解さがつきまといます。

このような英文は機械翻訳の対象とするべきではなく、人間の無限の努力の結晶によって、解釈し、翻訳するしかない対象物なのだと思います。

ここまで難解な英文ではなく、一般論として英文が読めないという点について説明させていただきます。

レベルによっても多少違いますが、英文が読めないという人はまずボキャブラリー(語彙)が不足していることと、基本的な文法を理解していない場合がほとんどです。実は相手の言っていることはまあまあ理解できるが、話すほうになるとうまくいかないと言う人も、この二つの点で問題があります。

1.ボキャブラリー(語彙)が不足している場合
新聞や雑誌を読むには最低でも5,000語くらいの語彙が必要です。小説の場合は作家によって違いますが、7,000語くらいで専門書の場合は5,000語から6,000語プラス専門用語でしょうか。ちなみにアメリカ人がどのくらいの語彙をもっているか、筆者は興味があったのでいろいろ調べたのですが、3,000語から10,000語と教育によってえらいバラツキがあるようです。高校でも大学でも国語(アメリカ人にとって英語は国語です)を一生懸命勉強した人は8,000語から9,000語で、10,000語ある人は相当なインテリと言えそうです。

ライターになるとさらに3,000から5,000語、増えます。エマスン、クラスの哲学者になると二万語くらいはありそうです。もしかしたら三万語を超えているかも知れません。

筆者が学生時代、ヘーゲル哲学の権威者によって私塾が開かれており、「小論理学」を一週間に一度、一年間に渡って教えて貰いました。哲学も全く学んだことがなかったですから、予習で「小論理学」を読んでもさっぱり分からなかったのが、この先生の講義を聞くとあれよあれよと魔法のように分かるようになりました。

唯心論を哲学として、また学問として体系づけたヘーゲルを楽しく学ぶことが出来た一年となりましたが、そのくらいこの人の講義は分かりやすかった、その理由は完璧にヘーゲルを理解していたのだと思います。

その割にヘーゲルの理論はすっかり忘れてしまいましたが、すぐに「しなければならない」と説くカントのことをヘーゲルは、「sollen(ゾルレンとは英語のmustまたはshouldの意味)病という病を持っている」と批判していたとの言葉が強烈な印象として残っています。

当然のことながら、ドイツ語の原典でヘーゲルの書籍を読んでいたはずですが、この人のドイツ語の語彙はドイツ人の学者より多いと言われていました。恐らく二万語とか三万語という巨大さだったのではないかと思います。

かれらはどうやって語彙を増やしてきたのでしょうか。語彙の多いということ、 それを考える前にわれわれ日本人はどうやって日本語の語彙を増やしてきたのでしょうか。小学校、中学校、高校と高学年になるにしたがって辞書をひくようになり、語彙を増やしてきたはずです。アメリカ人の場合もまったく同様で辞書をひいて語彙を増やしてきています。ですからわれわれ外国人が英語の語彙を増やしていくのは、辞書をひいて増やしていくしかないわけですね。
ところがこの辞書をひくのは本当に面倒なんですよね。それがたまにならよいのですが、英文一頁でわからない単語が10も20もあるのでは、いやになります。学校の予習なら仕方がないでしょうが、そのほかによい方法はないでしょうか。
一つの方法は自分のレベルとできるだけ近い英文から読み始めることです。われわれが日本語を学習してきたとき、いきなり夏目漱石からやらなかったですよね。ですから初級のかたは「初心者向け英会話上達法」で述べたように童話を英語で読むことが薦められます。
中級の人は対訳書がためになります。あるいはやはり前に述べましたが、ダニエル・スチールの小説を原書と翻訳版と両方買ってきてわからないところは、日本語を見るというのもよいと思います。面白く英語を学習しつづけるためにはこの場合、辞書をひくのを最小限にすることです。辞書をひくのは同じ言葉がよく出てくるときとか、その言葉がわからないと全体がわからなくなってしまうときなどに限定するのです。

辞書をひいてなるほどと思っても、すぐ忘れてしまい同じ日に同じ言葉でまた辞書をひくことがしばしばですが、かまいません。あなたが記憶力が特別悪いわけではありません。筆者なども同じ言葉を10回引いてもまだ覚えないということが何回もありました。何故、回数がわかるかですって。いいでしょう。お答えしましょう。
筆者は語彙を意識して増やそうとしたとき、はじめて辞書を引くとその英単語に鉛筆で横線を引きます。2回目のときはその単語の左横にたての線を引きます。3回目のときは右横にたての線を引きます。4回目のときはその単語の上に横線を引きます。4回同じ単語を引くとその単語が長方形で囲まれるわけです。さらに5回目、6回目と続けていくと8回目には2つの長方形で囲まれてしまうわけです。
これだけ同じ単語を引けば覚えそうですが、覚えないときがあります。辞書を職場とか、枕元とか、トイレとかで3冊使っているときなど、どの辞書も3回も4回も引いた線があると全部で10回以上引いたことになりますね。

これだけ引いてもまだ覚えられないと「お前の脳は記憶する能力はあるの?」と言いたくなりますよね。でもそれが筆者の脳の力ですから、諦めて続けるしかないんです。

自分の能力にトホホと言いながら、筆者は土日の勉強デーに相変わらず辞書を引きます。さすがに線は鉛筆で引かずにマーカーかボールペンで引くようにしています。この作業は死ぬまで続くのかも知れません。

冗談はともかく、もう一つおすすめする単語記憶方法は、ポケットに入るような小さなノートを買ってそれに単語を書き込み、電車を待っているときとかのちょっとした時間にそれを読むことです。この場合、大事なことは単語を文章と一緒に書くことです。単語は関連付けないと覚えにくいからです。初心者の方には少し難しいかも知れませんが、筆者の以前のノートから引用してみます。

    1. addict = devote or addict oneself to gambling He is addicted to drink.
    an opium addict あへん中毒者 (noun 名詞) addiction

    2. hunch 背を丸める
    She hunched herself on a mat.

このように書くとカッコウは良いですが、実は昔作ったこのノートも最近出してみてみると分からない単語のほうが多いのですね。これでは二万語とか三万語の語彙は無理になりますね。もっとも読解力だけはついてきているので満足するようにしています。ハイ!

長くなりましたので、この辺で終わりにします。次回はこの続きをお話します。

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