翻訳者への道(3)翻訳者への道 (3)

こんにちは、マイクサカモトです。本日より私の体験です。

翻訳はいつからしたのか
先ず今まで翻訳をしたかどうかによって変わってくると思います。学校や会社でやった経験のある人は成功や失敗の経験もあるので初歩的なことはわかっていると思います。

私が初めて経験したのは電気メーカーでのことです。今から50年以上も前だと英語が出来る人は少数派でした。そこで入社したばかりで商品のこともろくにわからない私が上司と一緒にカタログの英訳をすることになりました。この上司もあまりうまいとは言えない人で時間ばかりかかって進みません。そこで休日出勤してやることになりました。二人しかいないので根を詰めてガンガンやるわけでもありません。のんびりしたものです。

この上司も「日曜だからゆっくり、やろうや!」とのことで、そのうち、友人たちに電話したりして長い話を始めました。結局、私がほとんど訳してしまいました。このように言うとカッコが良いですが、この後が酷いのです。

この会社も私たちも校閲とかネイティブチェックの大切さなど知らないですから、私が英訳した原稿を何とそのまま印刷会社に提出し、カタログが出来てしまったのです。 それから三か月くらい後だったでしょうか、次の商品が出来上がってカタログをつくるときはいつの間にか翻訳は私たちでなく、他の人がやるようになりました。その会社の輸出代理店で英語を母国語とする二世の人が英訳をしました。出来上がった後に読みましたが、やはりうまいんですね。日本人とは違うとしきりに感心しました。

当然ですが、カタログにしても取扱い説明書にしても私たちには英訳してくれという指示は二度と来ませんでした。英米人にとってよくわからないカタログが出来上がってしまったのでしょうね。ところが来なくても口惜しいとも思いませんし、メーカーの輸出担当者としては、翻訳はハンパな仕事くらいにしか考えていなかったんですよ。今から考えるともったいないことをしたと思います。社内翻訳者は在宅翻訳者と比べると、真剣度は低いかも知れません。

いずれにしても自分の英語が通じないという強烈な体験をしたということ、ネイティブの英語がいかに日本人の英語と違うか、カタログなど英文による印刷物がどのように出来るのか、これをいつの間にか覚えたのは大きかったと思います。

在宅の翻訳者となる
翻訳会社のトライアルが受かって在宅翻訳者として数社に登録されました。これは、とても嬉しかったですね。

ところが肝心の仕事が来ません。何で?と散々考えてもわかりません。そこで私は登録された会社を二社ほど訪問しました。ところが、この二社の担当者とも「何て冷たいの」と思うくらい、用心深くて話がはずみません。つまり、翻訳会社って翻訳者を信用しないところなんですね。

何故そうなのか。クライアントを一社作ることは大変な努力が必要ですが、そのクライアントに品質の悪い商品を納品すると余程の実績がない限り、そのクライアントは逃げます。トライアルがよくても本番になると良くない翻訳をする訳者がいます。それがチェック漏れで納品されたときに逃げられるという結果になります。

恥ずかしい話
私の恥ずかしい体験をお話しします。やっと信用がつきはじめた会社から大きな仕事がきました。納期的に間に合わなかったため、もう一人の訳者を仲間にして作業を始めました。ところが間に合いません。そこで二人で徹夜をし、やっとの思いで納めました。そんな状況だったので見直しはほとんどしていません。このクライアントからは二度と仕事は来なかったですね。この場合の私のミスは二つありました。一つは見直しをしていなかったことです。もう一つ、これはもっと大きな問題ですが、プロジェクトに関して見通しが甘すぎたことです。そもそも徹夜をしなければ出来ない、これはもう駄目ですね。

翻訳会社の実情
話は長くなりましたが、そのようなことで翻訳会社は在宅の翻訳者に冷たかったんですね。ただし、翻訳会社は翻訳者を抱えていないと商売になりません。気に入った翻訳者がいてもいつでも受けてはくれません。皮肉なことに育ててもスキルがアップしたら他のエージェントからの仕事で多忙でこちらの仕事を断ったりしてきます。そんなわけでいつも翻訳者のバックアップをつくっておこうとします。そこで登録はしたけれど仕事は発注しないという翻訳者を多く抱えることになってしまうのです。これは私が翻訳会社を組織し、営業を始めてから良くわかりました。

日英の問題点
私たち日本人の欠点は、英語を書く習慣が作られていないということです。私が英訳したものをアメリカ人に見せたのですが、「良く分からない、文脈が読めない」と言われたことがあります。この文脈によって読むという英語の構造は私も初めはわかりませんでした。「なぜ私の訳した英語がわからないの」と詰め寄っても冷ややかな反応です。 そのうちに1人のアメリカ人が面白いことを教えてくれました。アメリカでは高校のときに徹底的に作文の演習をするそうです。一枚の作文でもリード(Lead)があり、その後に注釈(Comments)や解説(Explanation)があって最後に結語(Conclusion)が来る、その順序と流れがきちんとしていないと国語の先生から、つまり英語の先生から注意され、書き直しとなる。名門高校ほど、その訓練が厳しい、だから大学に入ったときにはアメリカ人は文章を書く訓練がある程度出来ているのだと。

へぇー、そんなもんかと私は思いました。 だって私たち日本人は受験勉強で忙しくて高校では日本語の文章を書く訓練なんてしませんよね。

話をまとめますと、英語は文脈によって理解する言語であるのに対し、日本語は文脈がいい加減でもある程度理解できてしまう言語だということです。つまり英語の場合、文脈が論理的に成り立っていないと読めない文章になるということです。アルファベットではない日本語ではこの人は何を言いたいのかな、それにしても下手な文章だと思いながらも読めないことはありません。

その後、いろいろ勉強してみると、英文ライティングではだいたい200ワードから300ワードの中で起承転結の流れになり、その次の話題に移ることが多いということも知りました。

この点で一番困るのは役所の方針を英訳することです。お役所は政治家の選挙演説と同様に良いことだらけの方針を平気で書きます。「これもやります、あれもやります」と、その通り英訳するといったい何が言いたいのか、英文としては読めなくなります。極端な時には1つの文章の中で矛盾することを無理やり言っているような文章もあります。これは英訳不能です。こんなことがわかり始めたころからお役所の仕事が増え、毎日その英訳をするのに悪戦苦闘が続きましたね。長ったらしい文章の中で矛盾がある、これを英訳するのはムリ、思い余ってエージェントの担当者に相談しました。その人は何て言ったと思います?「英語が並んでいれば良いです」がその答えです。「えっ、ちょっと待ってくださいよ。そんなこと言われたって」と私は絶句してしまいました。

これと似たのがたまに社長挨拶でもありますね。通常は優秀な秘書や経営企画室の人が書いているので問題はないのですが、文章を書く訓練をしていない社長自らが書いたものでしょうか、話題があちらこちらに跳んで何を言いたいのかよくわからないのがあります。このような人に限って業界の言葉が次から次へと出てくるので、もうお手上げになります。翻訳者泣かせの最難関の仕事です。

そんな仕事でも10年以上やってますから、解決策はあります。つまり、その元の日本語を直してしまうか、あるいは翻訳が日本語に良く似ている英語にしてしまうのです。


 英語かけこみ寺へ