【 第5章-09 】
  飛行機をまちがえたら

 私の失敗談をお話ししましょう。
 その日私は、超過密な予定を立てていました。ニューワーク空港を10時にたち、フィラデルフィア空港で11時にある人たちと待ち合わせをして、そのまま商談し、フィラデルフィアを2時過ぎに出発してシアトルのホテルで7時半に次の商談というムチャクチャなものです。
 これは日本で言えば、朝8時の飛行機で東京をたち、札幌に9時過ぎに着いて2時まで打ち合わせを行い、夕方6時から鹿児島のホテルで次の打ち合わせをするという予定より、さらにムチャクチャです。
 ニューワークからフィラデルフィアまでは約1時間ですが、フィラデルフィアからシアトルまでの飛行時間は6時間もあり、時差も3時間ありますからね。
 なぜこのような予定を平気で立てたかと今から考えますと、海外に行くと、ある意味で興奮状態と言いますか、少し頭が変になるのではないかと思いますね。
 それはともかく、その日のニューワークは雨が降っていました。
 9時40分の搭乗時間(boarding time )には搭乗が始まりました。私は航空会社の係員(agent )に、搭乗券(boarding pass )を渡して、座席番号の半券を持って外に出ました。下にいた係員のそばに飛行機が待っていました。その少し先に別な飛行機もいたような気がしたのですが、とにかく雨も降っていたので、急いでその飛行機に乗りました。
 笑顔で迎える客室乗務員(flight attendant )に Hi! とあいさつして席に座りました。離陸して1時間過ぎても、着陸態勢に入らないものですからおかしいなとは思っていましたが、それでもまだ疑っていなかったんですね。
 ところが1時間20分たって着いたところは、ニューヨーク州のロチェスターだったんですよ。トホホー、私はホントに泣きたくなりました。
 でも泣いてはいられません。まずフィラデルフィアで私のことを待っている人たちにこのハプニングを知らせ、次にロチェスターからシアトルまで行く方法を見つけて、その予約(booking )をしなければなりません。
 真っ白になった頭をもとにもどそうとしていましたら、航空会社の係員が近づいてきて「サカモトさんですか」と聞いてきました。
 「そうだ」と答えたら「オフィスから連絡があって、間違えた飛行機にあなたを乗せてしまったから、問題が解決するようにお世話しなさいと言われています」と言うのです。
 私はフィラデルフィアで待っている人たちに連絡をつけてほしいこと、フィラデルフィアまで至急もどって、私を待っている人と商談をしたいこと、シアトルまでのフライトコネクション(flight connection )を見つけて予約してほしいことなどを伝えました。
 ところがフィラデルフィアにもどるフライトは午後の2時までなく、それを利用すると今度は本日中にシアトルまで行けなくなることがわかりました。私は仕方なくフィラデルフィアの予定を一方的にキャンセルしました。
 シアトルへはシカゴ経由で行くことになりましたが、シカゴまでのフライトの搭乗時間までかなり時間があります。
航空会社の係員からお詫びにと、使いきれないほど無料飲食券をもらったので、それを使って一軒しかないバーでヤケザケを飲み始めました。
 ロチェスター空港は静かなところですから、他の乗客にも何かあったということはわかっていたらしく、私はさっそく隣の人にWhat's happened? (何があったのですか)と聞かれました。私は事情を説明しました。
 そうしたら珍しいことなので、はじめに私の説明を聞いた人が別の人にまた説明するんですよ。そのうち遠くの人までが来始めたのです。
 私の代理人(?)はその人にまた説明し、最後に、

So, he missed entire meetings in Philadelphia.
(その結果、この方はフィラデルフィアでのすべての会合に出席できなくなったのです)

と言ったのですね。
 そうしたらある人が、グラスを持って私のところに来ました。
この人の友人は、飛行機をまちがえたため、ニューヨークに行くはずが、オーストラリアまで連れて行かれたそうです。また別の人も自分の失敗談を話し出したりして、ワイワイと盛り上がってしまいました。普通だったら私も一緒になって盛り上がるのですが、 このときは何か変な気持ちでしたね。 そりゃそうですよね、私の失敗から話が盛り上がっているわけですからね。
 この失敗の後、私は飛行機に乗るときは、しつこいくらい目的地(destination )を確認するようになりましたね。

前ページ | 次ページ | はじめに